百人一首 勝手にベスト5

記憶力低下を防ぐためのトレーニングとして百人一首を覚えることにした。

年齢を重ねるにつれて記憶力が低下する。それは避けらない。だが、できるならその進行を遅らせたいものだ。そこで記憶力低下に対する抵抗を試みることにした。

 

記憶力強化100本ノック、百人一首の暗記だ。

 

そのお供として、私は『エピソードでおぼえる! 百人一首おけいこ帖』を用いた。

本書は私のような百人一首を覚えようとする読者向けに作られた本だ。一首一首を単に羅列するのではなく、それぞれの歌に合わせた挿絵とともに歌にまつわるエピソードを紹介するなど、読者の記憶に刻まれるような工夫が施されている。また十首ごとに確認問題が用意されている。本当に覚えたのかを確認しながら読み進めていくことができる。

百人一首を1日2首ずつ覚えた。

私は本書の帯にある「1日2首、50日でおぼえられる」をそのまま実践した。朝起きて2首分2ページをじっくり読む。時間があれば品詞分解して自分なりの訳も考えてみる。そのあとは隙間時間にKindleを開いて繰り返し読む。読む際にはできるだけ音読する。これを50日間続けた。

 

50日間を終えた今、覚えているのは25首程度だと思う。4分の1だ。こんなものだろう。

覚えやすかった歌は具体的な情景を詠んだ歌。

覚えやすかった歌は、具体的な情景がありありと目に浮かんでくるような歌だ。

 

かつて歌は、今でいう「絵はがき」あるいは写真の役割を果たしていたようだ。出先の情景を歌であらわし、それを聞いた人々と情景を共有していたというわけだ。

 

桜、紅葉、山など対象となる素材がなんであれこのタイプの歌は記憶に残りやすく、覚えている歌のほとんどはこのタイプの歌だ。

覚えにくかったのは恋の歌。

覚えにくかったのは恋の歌だ。百人一首に占める恋の歌の割合は高く、かなりの数にのぼる。だがどうも覚えづらく、覚えている恋の歌はごくわずかだ。恋の微妙な心理を詠む歌に感情移入するのは、恋愛経験値が低い私にはハードルが高かったのかもしれない。

百人一首の歌はどれも素晴らしい。

百人一首の歌はどれもこれも味わい深い。声に出して読むと歌が織り成す言葉のリズムが美しい。本書を読み進むにつれて、暗記どうこうよりも、私は歌そのものに魅せられるようになっていった。時の洗礼をかいくぐり、長きにわたって人々の心を掴んできただけのことはある。

 

 

 

 

前置きが長くなってしまった。本題に入ろう。

百人一首  勝手にベスト5

素晴らしい歌揃いの百人一首ではあるが、その中から私のお気に入りの歌ベスト5を紹介する。

第5位

13 筑波嶺の 峰より落つる 男女川(みなの川) 恋ぞつもりて 淵となりぬる(陽成院)

 「訳 : 筑波嶺のてっぺんから、だんだんと流れ落ちてゆくみなの川のように、ぼくの恋心もつもっていって、深い淵のようになったよ。」

 

茨城県には筑波山という山がある。日本百名山の一つでもある美しい山だ。

 

筑波山の中腹に男女川(みなの川)という川が流れており、そこにこの歌を紹介する看板が立っている。私は小学生の頃子供会の遠足で筑波山を登山して以来、これまで何度となく筑波山を登山してきた。

 

ある程度の年齢になってからは登山するたびにその看板を見ていたので、いつしかこの歌を覚えていた。この歌は、私が本書を読む前から覚えていた唯一の百人一首の歌でもある。

 

この歌は、筑波山と過ごした幼き日々、若かりし日々、そして中年になってからの日々を思い出させてくれる。

 

この思い入れのある歌を第5位とした。

第2〜4位

17 ちはやぶる 神代(かみよ)も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは(在原業平朝臣)

「訳 : 不思議なことの多かった神代であっても聞いたことがない。竜田川の紅葉が、真っ赤な絞り染めのように染まるなんて!」

 

24 このたびは ぬさもとりあへず 手向山(たむけやま) 紅葉の錦 神のまにまに(菅家) 

 「訳 : このたびの旅は急だったのでぬさの用意もしておりません。その代わり、この錦織りのような紅葉を、神様のお心のままにお受け取りください。」

 

69 嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり(能因法師)

 「訳 : 嵐が吹き下りて三室山の紅葉が舞い散り、竜田川は美しい錦の織物のようだなあ。」

 

 

この3首はいずれも紅葉の鮮やかさを詠んだものだ。赤く染まる紅葉が一面に広がっている様子が目に浮かんくる。 この3首はもっとも覚えやすかった歌でもある。

 

竜田川や手向山の紅葉はどれほど美しいのだろうか。気になってしまう。そこには遠くて行くことはできないが、秋になったら近場の紅葉スポットに足を運び、紅葉の美しさに心奪われる時間を作りたい。さらにそこで一首詠めたら最高だ。

第1位

33 ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ(紀友則)

「訳 : 日の光がおだやかにさしている春の日なのに、どうして落ち着いた心がなく桜の花は散ってしまうのだろう。」

 

桜の花は散るからこそ美しい。だができたらもう少し桜を愛でさせて欲しい。そんな心情をウィットに富んだ仕方で表現した歌だ。散り際の桜が愛おしくなってくる。桜が散り始める時期、私はこれからこの歌を思わずにはいられなくなりそうだ。

 

また、この歌は音読すればするほど味わいが増してくる。言葉のリズムが素晴らしい歌だと思う。

折をみては本書を読み返し、末長く百人一首の世界と繋がっていたくなった。